アクアノート誕生前夜のプロトタイプ
2019年5月11~12日にアンティコルムによってジュネーブで開催された「インポータント・モダン&ビンテージ・タイムピーセズ」と題したオークションに、Ref.5060プロトタイプと称する時計が出品され、賛否両論を巻き起こしました。
ノーチラスから進化したといわれるソリッドバックのスチールケース、トロピックラバーストラップと両開きのディプロイヤント・バックル。
画像:antiquorum.swiss
そんなアクアノート、Ref.5060の量産モデルと同様の外装に、メタルフレーム付きのスリムなバーインデックスとドットのセコンドトラックからなるブラックダイヤルと”ジェンタ針”の組合せ、3時位置にはデイト窓というノーチラス風の顔に、このモデルならではの11時30分の位置に配されたパワーリザーブ表示、そして4時位置の “PATEK PHILIPPE” のロゴの下に見慣れない “PROTOTYPE” の表記。
画像:antiquorum.swiss
アンティコルムの説明によれば、これは恐らくは1996年に製作されたアクアノートのファーストモデルのプロトタイプのひとつで、1998年に発売されたノーチラス・パワーリザーブと同じキャリバー330/196を搭載したパワーリザーブ・インジゲーターを備えるモデルであり、またこれは一般への販売の為に製作されたものではない為、エクストラクト・フロム・アーカイブの発行は出来ない、としています。
画像:左:antiquorum.swiss,右:ノーチラス ref. 3710(アンティグランデ資料)
量産モデルでないが故の興味深さと難しさ
改めてアンティコルムのこのオークションのカタログを眺めると、ブランド名の欄に「パテック・フィリップ」ではなく、「プロトタイプ」との表記をしており、クラスプに対しては「パテック・フィリップ ダブル・ディプロイヤント クラスプ」と明記しているのに対して、文字盤、ケース、そしてムーブメントに “Signature” が入っているとのみ記載されている点も含めて、アンティコルム自身もその真贋の判断に自身が無いかのような印象を受けます。
またそのムーブメントのブリッジには、330/196のキャリバー表示と共に、LABO No.04というプロトタイプならではのムーブメント番号が刻まれており、これは今まで量産型のアクアノートには一度も採用された事が無いキャリバーであるとの説明も加えられています。
画像:antiquorum.swiss
アクアノートはノーチラスから派生した、とはパテックフィリップ自身の説明であり、量産モデルよりもノーチラスに近いデザインの文字盤も違和感が無いように思えますが、肝心のパテック・フィリップのお墨付きがないどころか、本当にプロトタイプであったとすれば、これはパテック・フィリップの社内にて保管されているべきものであり、運よく落札出来たとしても、後でパテック・フィリップから返還を要求されて面倒なことになるのではないか、との憶測も飛び交いました。
50,000~80,000スイスフランという、どちらかと言えば控え目なアンティコルムのエスティメートに対して、その結果はファン達の好奇心が上回り、終わってみれば401,000スイスフランというエスティメートの約5倍の落札額を記録、会場を大いに沸かせました。
頼るべきは我が眼力
レアピースを求めて売買を続けていると、時として何ら確信を持てないまま決断を求められる場面に出くわすことが有ると思います。
画像:上:antiquorum.swiss,下:ノーチラス ref. 3710(アンティグランデ資料)
購入後、困ったことが起きた時に、とかく売り手に責任を転嫁しようとする傾向が強いのが日本人の特徴的なところといわれる事が多々有りますが、そんな時こそ、コレクターとして、愛好家としての資質が問われていると考えるべきでしょう。
実際に買い手と売り手はあくまで平等であり、売り手が無理に勧めた訳でも無ければ、商品を渡し、買い手が検品を終えた時点で売り手の役割は終わる、それが国際基準の取引というものなのです。
アクアノート PROTOTYPE Ref.5060
落札日:2019年5月11日
型番:Ref.5060
製造年: 1996年頃
ムーブメント:330/196
情報元:antiquorum.swiss ほか
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