2023年10月24日、AMM(l’Association Monégasque contre les Myopathies )は11月5日に開催予定であったチャリティーオークション、ONLY WATCH (OW) 2023の2024年以降への延期を発表しました。
パテック・フィリップはじめ多数の有名ウォッチメーカー達による1点ものの寄付をはじめ、多くの人々の善意によって成り立ってきたこのチャリティーオークションは2005年から2年に一度のペースで開催され、2023年に10回目を迎える予定でした。
画像:www.onlywatch.com
世界中のコレクターや関係者達にとって余りにも魅力的な時計ばかりがそろうこのオークションは回を追うごとに過熱を極め、いまや単なるチャリティーイベントの枠を超えて、時計業界上げての2年に一度のお祭りのような賑わいを見せていました。
2023年も既に62本のオンリーピースが出揃い、9月6日のLAに始まったワールドツアーもドバイとジュネーブを残すのみとなっていたOW 2023は、オークション本番の直前になって、こうして突然の延期を発表せざるを得ない事態となったのです。
この記事を執筆中の2024年2月の段階では、SNS等も含めて上記の延期発表以降は情報の更新が行われていないようですが、何故この2年に一度の祭典が延期せざるを得なくなったのか、改めてまとめておきましょう。
AMMについて
AMMは希少な遺伝性疾患であるデュシェンヌ型筋ジストロフィー(DMD)の治療法研究を加速させることを目的として、子供の診断を受けた両親のグループによって2001年に設立されました。
画像:www.onlywatch.com
AMMの代表を務めるのはリュック・ペタヴィーノ会長であり、彼の息子、ポール君もまた、このDMDに苦しんでいたことから始まりました。
DMDは男の子だけに発症する病気で、4歳前後で発症、患者の平均寿命は20代後半といわれています。
非常に残念なことにポール君は既にこの世を去っていますが、ペタヴィーノ会長はまだ治療法のないこの病魔と戦う為にAMM、そしてオンリーウォッチを設立したのです。
2023年10月9日 AMMが財務調査の詳細を発表
ソーシャルメディア上で起こったAMMへの疑問の高まり、何がその引き金となったのかについて今から追うことは難しそうですが、10月9日、AMMはその解答として、過去5年間の財務諸表を含む、運営に関する詳細な情報を明らかにしました。
画像:www.onlywatch.com
Association Monégasque contre les Myopathies / Only ProjectGovernance and Transparency update (onlyproject.org)
AMMがあるモナコでは、500,000ユーロ以上の予算を持つ慈善団体に対して財務情報の公開が義務付けられているといいますが、AMMはこれを実施していなかったことが今回の混乱の一因を作ってしまったようです。
これまで9回のOWオークションを通じて、約1億スイスフランもの資金を調達してきたといわれていますが、AMMはこれまでにその半分である5,000万スイスフランを研究資金として寄付、そして残りの5,000万スイスフランを現金、または同等物として保有しているといいます。
またAMMが寄付を継続してきた2つの研究機関のうち、メインとなっているSQYセラピューティクスの株式をペタヴィーノ氏をはじめ患者の家族6人の合計で51%所有していましたが、株主に対して配当は支払われていないこと、また同社の株式は投機目的での運用が出来る種類のものではないことを説明しています。
さらにはDMDに罹患した子供たちの親がAMMの重要な利害関係を握っていることも説明されました。
AMM、OWオークションの今後の取り組み
これに加えて、OWオークションの規模拡大に見合う管理体制や情報開示の体制づくりの為の今後の取り組みについての説明が行われ、2023年から公認監査人による会計監査を受け、財務諸表をオンラインで公開することなどを公言しました。
更には、
「私たちは、私たちのチャリティー組織が、これまで、そしてこれからも、皆様のおかげをもちまして、その影響力を高めていくことができるよう、そのプロセスと透明性を確保するための行動と対策を講じています。
その結果、チャリティーの機能経費は現在の1〜2%より必然的に増加することになりますが、このユニークなプロジェクトにふさわしい成熟度と透明性を私たちの体制に与えるために、このような措置を取ることを前向きに捉えています。
これは、私たちがOWを継続的に成長させ、DMDの少年、男性とその家族のために研究資金を提供するために不可欠な動きであると理解しています。
このプロセスにおいて、AMMはこれまでのAMMの重要な価値観と原則を守るために全力を尽くします。
その為には手間も時間もかかると思われますが、これは私たちの新たな歴史の幕開けであり、私たちは何よりも前進することを切望しているのです。」
と、AMMの変わらない強い意思を訴えました。
AMM、およびOWオークションの透明化はまだ進行中ですが、確かに理性的な批判を退けるだけの説得力があるもののように見えます。
オーデマ・ピゲがOW不参加を発表
しかしそれから8日後、オーデマ・ピゲはOW 2023への不参加と時計の寄付をキャンセル、「これ以上のコメントはありません」とだけ付け加えました。
画像:watchesbysjx.com
F.P.ジュルヌがSNS上でOW支持を表明
一方でOWの常連であり、OWの創始者であるリュック・ペタヴィーノ氏の知人でもあるF.P.ジュルヌ氏は同月19日、自身のインスタ公式アカウントにて以下のような声明を発表しました。
画像:www.instagram.com/fpjourneofficial
オンリー・ウォッチについての私の意見
私の願いは、子供たちを救うために必要な医療チャリティーに寄付することです。
私は、私がよく知るリュック・ペタヴィーノを全面的に信頼しています。
そしてもちろん、Only Watchの後援者であり、その保証人であるモナコ公国に対しても。重要なことは、この取り組みを推進することであり、これが私がオンリー・ウォッチに残る理由です!
この恐ろしい病気–罹患した若者の大半が20歳までに命を落とす–が克服されるとき、私は自分が貢献したことを誇りに思うだろうから。フランソワ – ポール ジュルヌ
Francois-Paul Journe extends his warmest support to his friend Luc Pettavino and Only Watch. .
そして10月23日、第10回OWオークションの延期を発表
混乱が続く中、AMMはオークションの延期を決定しました。
Only Watch – the official website
画像:www.onlywatch.com
「私たちが選択した資金調達戦略、支援された組織とプロジェクト、協会の会計と予算に関する回答が直ぐに提供されましたが、オークションは余りにも間近に迫っており、私たちの回答に対する承認をいただくにも、ガバナンスの見直しや修正を検討するにも、とても時間が足りません。
私たちは、このプロジェクトに関わったすべての関係者の真摯な姿勢に疑念を抱くわけにはいきませんし、この素晴らしい物語が書き換えられてしまうことも許されないと考えます。
私たちは、このユニークで野心的な慈善的・科学的プロジェクトに結集してくれたコミュニティと調和しながら前進し続けたいと考え、本日、オークションを2024年に延期する決断を下しました。」
ONLY WATCHの再開は?
以上の経緯から、公認監査人による会計監査を受けた財務諸表の公表や、コミュニティーの研究活動の公開などによるAMMの運営の透明化が進み、一定の信頼を回復することがOW再開の条件といえそうですね。
今はただ、AMMからの新しい知らせを待つ他無いようです。
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