ロレックス エクスプローラーII フジツボ ref.16550

一瞬見落としてしまいそうでいて、実はとんでもないレアモデル

2020年6月28日、ジュネーブで行われた “Important Modern & Vintage Timepieces” と題されたオークションに、非常に珍しい文字盤を持つロレックス エクスプローラーII Ref.16550が出品され、55,000スイスフラン(約620万円)という価格で落札されました。
 
非常に珍しい文字盤を持つロレックス エクスプローラーII  Ref.16550
画像:www.antiquorum.swiss

気を付けていなければ見慣れた黒文字盤のエクスプローラーIIとして、見落としてしまいかねないその時計の最大の特徴は、文字盤上に配されたインデックスのメタル製のフチが太く、夜光塗料の盛られた部分の面積が小さい、いわゆるフジツボインデックスが採用されている点でしょう。

文字盤:フジツボインデックス
画像:www.antiquorum.swiss

海外のコレクター間ではカメレオンダイヤルやニップルダイヤルとも呼ばれるこの仕様は、GMTマスターのゴールドモデルに初めて採用され、1960年代初頭に登場したGMTマスターのロレゾールモデルや1960年代末に登場したサブマリーナデイトのゴールドモデル等にも採用されてきましたが、ゴールド製のインデックスの存在感を増すことで、ハイエンドなゴールドを採用したモデルならではの特別感を演出するものとして考えられて来ました。
 
フジツボダイヤルのサブマリーナとGMTマスター

そしてロレックスは新世代のムーブメント、キャリバー3000系の登場後の1983年に発表したサブマリーナデイトのロレゾールモデルにもこのフジツボインデックスを採用、これと時を同じくしてプロダクトのディテールの詰めが行われていたと思われる、新世代のエクスプローラーIIでも試すだけ試してみた、ということではないかと推測されます。 
 

ロレックスの試行錯誤

 
ロレックスのビンテージが脚光を浴びた1990年代当時から、失われた魅力的な意匠を満載するユニークなエクスプローラーII Ref.1655は中古市場で高い人気を誇っていましたが、実際に腕に着けて使ってみれば直ぐに気付く通り、その文字盤が持つ複雑なインデックスは時間の読み違いを誘発しやすく、24時間針の視認性を優先したと思われるそのデザインは、ツールウォッチとしての信頼性を追求するロレックスとしては満足できるものではなかったのではないかと思われます。

エクスプローラー2 Ref.1655

それを証明するかのように次世代であるRef.16550ではデザインを大きく変えてきましたが、そのダイヤルはサブマリーナやGMTマスターと共通であり、24時間針もGMTマスターと共通であったのです。

ref.16550

「変える必要が無いものは変えない」のはロレックスの伝統的かつ特徴的な手法のひとつですが、賛否両論を呼んだこのモデルチェンジによって、エクスプローラーIIは個性を失った、と落胆した一部の時計ファン達が、「ロレックス、ファンの気持ち分からず」とのブーイングを合言葉のように唱えるようになった、きっかけのひとつとなってしまったのです。
 
更に想像を逞しくすれば、文字盤を他のモデルと共通にすることにロレックス自身も抵抗を感じ、エクスプローラーIIの文字盤に少しでも差別化された部分が欲しい、と考えたものの、「探検家の為の時計」であるエクスプローラーの夜光の面積をわざわざ小さくして、視認性を落としてしまうのは本意ではなく、結局はノーマルなフチありインデックスに落ち着いた、そんな試行錯誤が有ったのかも知れません。

プロトタイプが持つ絶対的なコレクション価値

今回出品されたエクスプローラーIIに付いているシリアル番号、8584610からすれば1984年頃に製造された個体と思われ、16550というリファレンス番号が付いた時計としては極初期のものということが出来、これはアンティコルムの解説通り、プロトタイプとして試作したものの中のひとつであったという解釈は、それなりに妥当性のあるものといえるでしょう。

シリアル番号:8584610(1984年頃)
画像:www.antiquorum.swiss

ちなみにこのフジツボインデックスのRef.16550が国際舞台に登場したのは、2008年5月12日にジュネーブで行われたクリスティーズによる “Important Pocketwatches and Wristwatches” 以来となるようです。

クリスティーズで落札されたフジツボ エクスプローラ2
画像:www.christies.com

リーマンショック前の「時計バブル」の絶頂といわれた時期に58,600スイスフラン(当時のレートで約580万円)で落札されており、その後10年以上に渡る全体的な時計の売買相場の圧倒的な高騰に対して、今回の落札価格は6%の値下がりに甘んじたかたちとなりました。
 
しかしこの有りそうでいて絶対に有り得ない意匠を持つ個体は、ロレックスのデザインチームの試行錯誤の一瞬を克明に記録したものとして、増加していく一方のロレックスファン達に対して普遍的な価値を持つものであることに違いは無いでしょう。

エクスプローラ2 ref.16550黒 プロトタイプ“フジツボ”文字盤

オークション:Important Modern & Vintage Timepieces
主催:Antiquorum
開催日:2020年6月28日
製造年代:1984年頃
ムーブメント:cal.3085
落札価格:55,000スイスフラン(落札当時:約620万円)

 

情報元:www.antiquorum.swiss,www.christies.com

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加藤

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