ラジオミールのサンドイッチ構造の文字盤

フランスきってのオークションハウス、アールキュリアル

アールキュリアルは、フランスきっての大企業、ロレアル・グループを率いるフランソワ・ダルが1975年、パリのマティニョン通り9番地にて、アートギャラリーや書店の運営、そしてアーティストの本の出版を手掛ける会社としてスタートしました。

2002年にはフランスのオークション市場の自由化を受けてオークションハウスとしての活動を開始、以来オークション市場に様々な革新をもたらしますが、中でも自らが開拓したデザインやストリートアート等の新しい専門分野において大きな成功を納め、短期間のうちに国際的な名声を獲得。

多面的なオークションハウスを目指して活動を広げてきたアールキュリアルは、現在パリとモナコを活動の中心として成長を続け、2018年には年間売上を250億円に近い規模にまで伸ばしました。

そんなアールキュリアルが2019年1月23日に、モナコのヨットクラブ・ド・モナコのQuai Louis IIにおいて開催した「FINE WATCHES」と題したオークションにおいて、ロレックス製のオリジナル・パネライウォッチ2本が出品され、会場を大いに沸かせました。

オリジナル・パネライウォッチの希少性

1930年代後半から1950年代にかけて作られたオリジナルのパネライウォッチは、軍に納品する為だけに作られ、一般に売りに出されることはなかった上に、過酷な環境下での使用を目的として作られたものだけに、訓練に、実戦にと酷使されたことで大半は破損、破棄されているとみられ、その希少価値、歴史的意義はことのほか大きいといわれています。

パネライの計器
画像:panerai.com

以下に今回登場した2本の詳細について触れてみましょう。

1、Lot 79 パネライ/ロレックス Ref.3646 Ser.260448 1940年代

ロレックスのオイスター懐中時計にワイヤーラグを溶接してレザーストラップを取り付けた、またはオイスター懐中時計にワイヤーラグを取り付けて作った腕時計、Ref.2533をベースとした、などそのルーツには諸説ありますが、いずれにせよ47ミリ径の巨大なオイスタークッションのスタイルを持つ腕時計に、パネライ独自のラジオミール(自発光塗料)を盛ったインデックスと針を組み合わせて暗所での視認性を確保したこの時計は、全てのパネライウォッチのルーツであると共に、現代のパネライウォッチ・コレクションのハイエンドラインとしてその遺伝子を残すモデルです。

パネライ/ロレックス Ref.3646
画像:artcurial.com

裏蓋の裏にロレックスのサインと共に刻まれた特許表示、及びねじ込み式のリューズにも刻まれた特許表示は、共にロレックスによるオイスターケースに関する特許を使用している事を表していると見られますが、「オイスターオープナー」と呼ばれるオイスターケースの裏蓋開閉用工具が噛み合う細かい溝が裏蓋外周に無く、そのかわりにシンプルな12角形となっているのが特徴的です。

パネライRef.3646の裏蓋
画像:artcurial.com

搭載するムーブメントはロレックス(エグラー)製の懐中時計用、キャリバー600系ですが、当時のロレックスの腕時計用クロノメータームーブメントを以てしても、軍が要求する高精度を保証することが困難であった、ということではないでしょうか。
また1940年代のプロダクトとしては当然のことですが、耐震装置は装備していません。

TIPS:ムーブメントのサイズについて
ムーブメントは、直径が大きい程、精度を上げるのに有利になります。これはテンワを大きく出来る、ゼンマイを強く出来る、部品ひとつひとつが大きい事でより厳密な調整が可能になる、といった事があげられます。例えば、IWCのポルトギーゼが懐中時計用ムーブメントを使用した件については、メーカー自らが、“当時は懐中時計用のムーブメントでしかクライアントの要求を満たすことが出来なかった”と公言しています。

ロレックス cal.600系
画像:artcurial.com

文字盤はパネライならではのブラックのサンドイッチ構造を持っており、12、3、6、9のアラビア数字とバトン型のシンプルなアワーマーカーと、ブルースチールフレームのラジオミール夜光を充填した長短針を備えています。

ブランドロゴやモデル名を排したシンプルな面構えは、ミッションウォッチらしい精悍さが漂い、オリジナルならではの説得力に満ちているように見えるのは筆者の主観によるものでしょうか。

ラジオミールのサンドイッチ構造の文字盤
画像:artcurial.com

またこの時計には、1944年にイタリア軍のコンバットスイマーの訓練準備中に撮影されたオリジナルオーナーの写真が付属しており、今回の出品はそのオリジナルオーナーの遺族によるものとのことです。

アールキュリアルによるエスティメートは70,000~100,000ユーロ(約875万円~1,250万円)であったのに対して、84,500ユーロ(約1,050万円)での落札となりました。

2、Lot 116 パネライ/ロレックス ラジオミール タイプA Ref.6152 Ser.956638 1950年頃

パネライ / ロレックス ラジオミール Type A
画像:artcurial.com

Ref.3646と同様の直径47ミリのクッション型で、ねじ込み式のリューズ、ねじ込み式の裏蓋等、オイスターケースの特許を採用した完全防水ケースであり、やはり裏蓋の裏とリューズに特許のサインが刻まれています。

今回出品された時計のリューズには、”BREVET” (特許)の表示と共にロレックスの王冠マークが入っているようですが、これがオリジナルの仕様のままなのかについては懐疑的です。

ロレックスの特許表示brevet
画像:artcurial.com

またRef.3646で採用されていたワイヤーラグからケースにしっかりと固定されたラグに変更されたと共に、ケース内に耐磁性のインナーキャップが追加されている点は、当時の軍用時計らしい進化といえるでしょう。

これはいうまでもなく、現代のラジオミール1940のスタイルの原型です。

ラグと耐磁インナーキャップ
画像:artcurial.com

またこちらの時計では、黒文字盤にRADIOMIR PANERAI のサインが入っており、アワーマーカーの堀りが上記のRef.3646と異なる事から、後期型の薄くなったサンドイッチ文字盤が採用されていると思われます。

搭載するムーブメントは上に同じくロレックス製のキャリバー600系で、耐震装置を備えていないものですが、こちらは15石の仕様です。

ロレックス cal.600系
画像:artcurial.com

この時計は、かつてNATOの副提督であったアマデオ・べスコ氏がプライベートコレクションとして所蔵していたものとして、2008年6月8日に香港で開催されたアンティコルムのオークションにおいてロットNo.406として出品された時計であり、ヨーロッパのコレクターからの出品です。

今回、こちらの時計には裏蓋を外す為の工具と、アマデオ・べスコ氏の軍事履歴に関する歴史的文書が付属しています。

アールキュリアルによるエスティメートは80,000~120,000ユーロ(1,000万円~1,500万円)であったのに対して、実際の落札額は226,000ユーロ(約2,800万円)にまで競り上がりました。

パネライのオリジナルとして、ロレックスの別注品として

これらパネライによるラジオミールウォッチは、原始的なツールウォッチとして研ぎ澄まされた魅力に加えて、押しも押されぬロレックスによる別注品としての計り知れない付加価値を持っており、これは現代のオフィチーネ・パネライのコレクションにも通じる魅力として、広く時計コレクターに認知されています。

オリジナルの軍用時計として、パネライの原型として、そしてビンテージロレックスの一派として、オリジナルパネライの魅力は、全ての時計ファンに訴求するものということが出来るでしょう。

パネライ / ロレックス ラジオミール

品番:Ref.3646
製造年代:1944年
落札日:2019年1月23日
落札価格:84,500 EUR

パネライ / ロレックス ラジオミール Type A

品番:ref.6152
製造年代:1950年
落札日:2019年1月23日
落札価格: 226,000 EUR

情報元:artcurial.com ほか

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加藤

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