革新を続けるシチズン
2016年にケース厚僅か2.98ミリという圧倒的な世界最薄時計のエコドライブ ワン、2019年には世界最高精度の年差±1秒を実現したザ・シチズン キャリバー0100を発表し、その存在感を際立たせるシチズンは2021年、新開発のメカニカルムーブメント、キャリバー0200によって新たな展開を見せました。
日本の時計らしい高い精度と信頼性に加え、現代の機械式時計らしい審美性と独自の個性を兼ね備えるその新作は発表以来、国内のみならず、世界中のメディアからの注目を集めています。
日本の時計製造を支える双璧のひとつとして
海外の時計メーカーに追い付き、追い越すことを目標として切磋琢磨してきた日本の時計メーカーは、いつしかその高度な精密加工技術、エレクトロニクス技術、そして圧倒的なコストパフォーマンスで世界の時計市場において決して小さくないシェアを獲得するに至りました。
しかし1980年代に巻き起こった機械式時計の復権以降に注目されるようになった新たな価値観の追求において、特にシチズンに関しては立ち遅れていた部分が有ったように思われます。
1995年、シチズンはその創立65周年を祝い、業界初の10年保証、年差±5秒を誇るアナログクオーツ時計の最高峰であるザ・シチズンを発表しますが、高度な量産技術とエレクトロニクス技術を強みとして打ち出した普及価格帯の製品と、ムーブメントの供給がそのビジネスの中心であり続けたのです。
そして2012年3月5日。
シチズンは機械式ムーブメントやパーツの供給を通じて、スイスの時計業界を支えるプロサーホールディングスSAを傘下に収め、世界中の時計関係者を驚愕させました。
その当時から、シチズンは機械式のラグジュアリーウォッチという分野での新たな展開の足掛かりにするつもりに違いない、と囁かれてきましたが、あれから丁度9年後にあたる2021年の3月、遂にその第一歩を踏み出す、このザ・シチズン キャリバー0200が発表されるに至ったのです。
全く新しいキャリバー0200
「クロノス 日本版 no.095」が伝えるところによれば、キャリバー0200は直径29.1ミリ、厚さ5.0ミリという、現代の自動巻きムーブメントとしては若干大きめのサイズを持っており、シチズンが採用を続けてきた片方向巻上げ式の自動巻機構と、スモールセコンド仕様の主輪列というシンプルで手堅い基本設計を特徴としています。
これにLIGAプロセスによる厳密な形成によって作られたガンギ車をはじめ、シチズン初となる緩急針を持たないフリースプラングテンプ、そして耐震装置には伝統のパラショックでなく、新設計のランブロックを採用するなど、様々な挑戦が盛り込まれています。
更には厚い頭部とドライバーを差し込む溝に「すりわり」と呼ばれる僅かな面取りを持つ、自社製造によって作り込まれたネジや、プロサーホールディングスSA傘下のムーブメント製造メーカーであるラ・ジュー・ペレによって製造され、磨き上げられた地板やブリッジの採用などによって、現代の機械式ムーブメントらしい審美性と個性を兼ね備えています。
特にダイヤモンドカッターによって施されたブリッジの面取りは、この価格帯の他の時計には期待が出来ない仕上がりといわれています。
全てのキャリバー0200はケースに搭載された状態で3つの異なる温度、6つの姿勢での17日間に及ぶ精度検査を受け、スイスのクロノメーターよりも厳しい平均日差-3~+5秒という基準をクリアしたものだけが、シチズン独自の検査証と共に出荷されます。
個性豊かな3種類のモデル
この全く新しいムーブメント、キャリバー0200を初めて搭載して登場するのは、ステンレススチール製のケースとブレスレット、そしてブラックまたはブルーの文字盤を持つ特定店取扱いモデル2種類と、ステンレススチールケースとクロコダイルストラップ、そしてホワイトの文字盤を持つ世界で僅か55本という数量限定のモデルの全3モデルです。
ブラックと限定モデルのみに採用されるホワイトの文字盤は共に電鋳手法によって表面を荒らしており、光の当たり方によって多彩な表情を見せてくれます。
ブルーの文字盤には、放射状に拡がるヘアラインによるサンレイパターンを刻んだ下地にポリッシュラッカー仕上げが施されており、シックで透明感のある表情に仕上げられています。
全てのモデルはダイヤモンドカッターで切り出された鋭いエッジを持つドルフィン型長短針とシンプルなバーインデックス、そしてスモールセコンドからなるシンプルかつクラシックな構成を持っていますが、個性的な文字盤の仕上げや、歪みの無い平面と直線的なエッジを強調したケースやブレスレットのモダンな仕上がりと共に、現代的な時計としての輝きに満ちたもです。
シチズンの新しい挑戦
この新作の価格設定は、レギュラーモデルが消費税込みで605,000円、限定モデルが825,000円とのこと。
2021年8月に発売開始の予定と知りながら、この余りにも気になる新作のサンプル機だけでも見ることは出来ないものかと、銀座シックスにあるシチズン・フラッグシップストアに足を運んでみましたが、残念ながら2021年6月現在、まだ一般への実機の公開は始まっていないようです。
シチズンによれば目下事前予約を受け付け中であり、55本の限定モデルに関しては既に完売、他のモデルについても納期が遅れる可能性が高いとのことです。
この新作をきっかけとして、ラグジュアリーウォッチの市場においてもシチズンが大きな飛躍を遂げる日を、筆者は日本の時計ファンのひとりとして心待ちにしています。
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