歴史あるスピードマスターの全面刷新
ムーンウォッチの称号を名乗ることを許された唯一の時計、スピードマスター プロフェッショナル。
「狂気」とまで形容されたNASAによる過酷な採用テストにおいて、多数のサンプルの中で唯一、最後まで時間を刻み続けたスピードマスターの潜在能力は、作り手の想像をも大きく上回るものであったといわれており、機械式クロノグラフとして最高の信頼性を認められた時計として、また最大の成功を収めたツールウォッチとして、時計史にその名を刻んでいます。
そんなスピードマスターはスイスきっての巨大メーカー、オメガの象徴的な存在として、1968年のムーブメントの世代交代以降、今日に至るまで大きな変更なく生産が続けられてきた、比類なき存在です。
そんなスピードマスターも、コーアクシャル脱進機やシリコンヒゲゼンマイ、超耐磁性能等、業界をリードする先端技術を駆使した現代のコレクションにおいては、もはやクラシックが過ぎる存在となっており、このまま生産を継続する事に疑問の声が上がったとしても、何ら不思議ではない状況にあったといえるでしょう。
新しいスピードマスターのエンジン、Cal.3861
こうして生まれた新型のスピードマスタープロフェッショナル、最大の変更としてまず挙げるべきはムーブメントでしょう。
画像:Cal.3861 ムーブメント
新しいムーブメントであるCal.3861は、Cal.861やCal.1861から引き続きレマニア1873をベースとしながら、小型化した三層式のコーアクシャル脱進機やフリースプラングテンプ、シリコンヒゲゼンマイやオメガ独自の非磁性素材である二ヴァガウスを採用することで、15,000ガウスの磁場に耐える耐磁性能や更なる精度安定性の向上を実現。
2019年にアポロ11号の50周年記念モデルとして登場した限定モデル2種類に初めて採用されたこのCal.861直系の最新ムーブメントが、今後多くのモデルに採用されていくであろうと予想はしていましたが、こんなに早い段階で基幹モデルにまで採用されることになるとは、個人的に少々驚きました。
消滅したインナーケース
ムーブメントそのものが高い耐磁性能を持つCal.3861の採用により、オメガによれば「新作ではソリッドバックのモデルにもインナーケースは採用していない」とのことです。
左:Ref.310.30.42.01.001、右:Ref.310.30.42.50.01.002
これによりケース内でムーブメントをフローティング状態で保持していたケース構造にも変化があったものと思われます。
画像:シースルーバック Ref.310.30.42.50.01.002
フリースプラングやオメガ独自の耐震装置である二ヴァショック、そして軽量なシリコンヒゲゼンマイの採用によって間違いなくムーブメント自体の耐衝撃性能はアップしているはずですが、歴代のスピードマスターが耐えたNASAの過酷極まりないテストに、この新作は耐える事が出来るのでしょうか?
大いに気になるところです。
第四世代の再解釈により新規設計された外装
漆黒の表面を荒らした段付き文字盤、レコード溝が復活したインダイヤル、2重面取りが施された裏蓋、太く、若干短くなったラグ、カウンターウエイトの先端を尖らせたクロノグラフ秒針。
新作にはここに書ききれない程のディティールの変更点が有り、既に多くのメディアが取り上げていますが、これらのディテールは1963年(一説では1964年)に登場した第四世代、Ref.105.012の外装を参考にしたものといいます。
左:新型Ref.310.30.42.50.01.002 右:旧型Ref. 311.30.42.30.01.006
またインナーケースが無くなった事が関連してか、プラスチック風防のモデルでケース厚が0.7ミリ程度薄く、重量も22g減少しました。
これに1960年代後半に登場したRef.1116や1990年代前半に登場したRef.1479を模したと思われる短い5連リンクを持ち、クラスプ部の幅を従来の18ミリから15ミリにまで細く仕立てたブレスレットを合わせることで、その見た目と同様に、手に取った時の感触も数十年前のビンテージモデルに近いものになったのです。
これらの変化は、この新作により良い装着感をもたらすだけでなく、古いファンにとっては懐かしさを感じさせるものであるのと同時に、「スピードマスターらしさ」とは何かを再認識させるものとも思えます。
様々な意味において魅力を増した新しいスピードマスターは、今後も新たなファンを増産していくに違いないでしょう。
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