エクスプローラーダイヤルのRef.6538
2018年6月13日、ニューヨークで開催されたクリスティーズのオークションにおいて、1956年製のロレックス サブマリーナ Ref.6538が1,068,500USドルにて落札され、サブマリーナの落札最高額を更新しました。
腕時計として最高の知名度と人気を誇るデイトナでなく、今回サブマリーナにまで100万ドル越えのモデルが誕生したことは、世界中の時計ファンや関係者に大きな衝撃を与えました。
サブマリーナの歴史の中でも、Ref.6200、Ref.6538、Ref,5510と変遷した、8ミリの直径を持つ大振りなリューズによって防水性を強化したモデルは特に人気が有り、コンディション次第で市場価格がコンスタントに1,000万円を越える状況ではありますが、この3つのリファレンスの中ではまだ一番数が有るものと考えられているRef.6538で、しかもベゼルもブレスレットも残っておらず、風防には傷ばかりでなく亀裂も見られる、一見酷いコンディションにしか見えないものであったのです。
画像:christies.com
傷だらけの風防に覆われた、宝物と呼ぶに相応しい文字盤
この時計にここまでの値段が付いた理由は、いうまでも無くその文字盤の希少性に尽きるでしょう。
今回のRef.6538に見られる3,6,9のクオーターアラビックインデックス、通称エクスプローラーダイヤルは、Ref,6200で知られる通りサブマリーナの誕生当初より存在する意匠であり、1970年代のRef.5513までの長期に渡って受け継がれていたものですが、その製造数は余程少なかったらしく、現在ではその全てがオークションピースとなっています。
これに加えて6時位置の “SUBMARINER” 表記の上に見られる、単位が省略されて “200/660” とだけ書かれた防水表記が一般的なホワイトやギルトでなく、レッドでプリントされている点も非常に興味深いポイントです。
更にはこの1950年代半ばに製造されたサブマリーナの意匠を完璧に備えるエクスプローラーダイヤルがRef.6538に採用されている例は極めて稀であり、かつ傷だらけの風防の中で、その文字盤が素晴らしい状態を維持していたことが、今回コレクターの闘争心に火をつけたものと思われます。
画像:christies.com
ワンオーナーものらしい、うぶなコンディション
余談ですが、この時計の前オーナーはアラスカで仕事をしたり、世界旅行に出かけたりとアクティブな生涯を生きたカナダ人で、この時計は1950年代に100カナダドルで購入して以来、常に彼と共にありました。
ベゼルが無くなっているのは、彼が画家として働いているとき、絵の具がベゼルと風防の間に入って固まってしまったことで、うまく回らなくなったベゼルが気に入らなくなって自分で外してしまい、その後元に戻すことなく他界してしまった為、といわれています。
この時計はその後、今回の出品者である前オーナーの息子さんに受け継がれましたが、時計にあまり興味を示さなかった息子さんの友人がその類稀なる希少性に気付き、出品を進言したことによって、今回こうしてスポットライトを浴びた、ということのようです。
画像:christies.com
この時計にまつわるストーリーが事実であれば、今回のRef.6538は純粋にワンオーナーものということになりますが、公開されている画像を見る範囲では、確かに長年の愛用による摩耗がケース全体に見られるものの、平面感を残すケースサイドも含めて端正なオリジナルシェイプを残しており、少なくともよくビンテージロレックスにみられるような過度の外装仕上げによる痩せは無いように見えます。
近年のオークションに登場するビンテージロレックスには、製造年や時計全体の雰囲気に対して、より理想的なパーツを寄せ集めて組み上げたとしか思えない程の素晴らしい個体が少なくありませんが、この時計も何年か後に、熱心なコレクターによってより理想的な風防やベゼル、そしてリベットタイプのブレスレットがフィットされて、再び国際舞台に登場する事が有るかもしれませんね。
この時計はそんなオークションピースのベースとしても、充分な素質を持っているのです。
ロレックス サブマリーナ ref6538 369エクスプローラーダイヤル
製造時期:1956年頃
ケース番号:140’480
落札価格:1,068,500USドル
開催日:2018年6月13日
情報元:christies.com
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