希少なスプリットセコンド・クロノグラフ

最も高価なロレックスの時計

2016年5月14日土曜日、国際的なオークションハウス、フィリップスによってジュネーブで開催された “START-STOP-RESET : 88 EPIC STAINLESS STEEL CHRONOGRAPHS” と題したオークションにおいて、ロットナンバー56として登場した1942年に製造されたロレックスのスプリットセコンド・クロノグラフ、Ref.4113が2,405,000スイスフランで落札され、ロレックスの時計として史上最高値を更新しました。

今回登場したロレックスのRef.4113は051314というシリアル番号が刻まれた個体で、1996年のクリスティーズ・ニューヨーク、2013年のクリスティーズ・ジュネーブに続く3度目の登場となったもの。

ロレックス  スプリットセコンド・クロノグラフRef.4113
画像:phillips.com

2011年のクリスティーズ・ジュネーブにおいて、シリアル番号051318のRef.4113が1,035,000スイスフランと、ロレックス初の100万スイスフラン越えとなりましたが、2013年のオークションでは1,107,750スイスフランという落札額で記録を更新、そして今回2016年のフィリップスでこの個体はその2倍以上もの高値にまで高騰し、実に2度連続で史上最高値を更新して見せたのです。

スプリットセコンド・クロノグラフ、Ref.4113の希少性について

この国際的なオークションの場にしか登場しない、聞き慣れない4113というリファレンス番号は、ロレックスが製作した恐らくは唯一のスプリットセコンド・クロノグラフであり、1942年に051313から051324までの連続するシリアル番号を与えた12本が製造されたのみで、その後再度製作されることはなかったと言われる極めて高い希少性を持つものであり、今のところその12本中8本の現存が確認されています。

希少なスプリットセコンド・クロノグラフ
画像:phillips.com

またこのRef.4113は、シチリアの地と明確な繋がりが有る事が分かっており、1912年来の歴史を持つことで有名なカーレース、「ジロ・オートモビリスティコ・ディ・シシリア」の関係者からロレックスが注文を受けて製作され、レースの優勝チームに贈られた可能性が高いと言われているようですが、一般的なカタログや広告には一度も登場した記録が無く、決定的な資料が見つからない事から、このモデル誕生の経緯は謎のままとなっています。

ジロ・オートモビリスティコ・ディ・シシリアgiro-automobilistico-di-sicilia

機能美に溢れるツールウォッチ

この時計の最も特徴的な、44ミリという製造年当時のトレンドからすれば相当に巨大なケース径は、搭載されるムーブメント、バルジュー55 VBRの大きさに起因するといえるでしょう。

元々は懐中時計用に開発されたスプリットセコンド・クロノグラフムーブメント、バルジュー55 VBRは直径が約40ミリもあり、まず外観のデザインありきで製作される現代の時計達とは異なり、ムーブメントを守る鎧はその厚みが僅か2mm程度という、デザインが内包するメカニズムに影響を受けていた時代ならではのもの。

また一般的なバルジュー55 VBRは厚みも7.9mmと、それなりの厚さがあるはずですが、このRef.4113については、公開されている範囲の画像を眺めている分には、他社のバルジュー55 VBR搭載機のような厚ぼったさは感じられず、ここにも何らかのモディファイが加わっているのかもしれません。

2プッシャークロノグラフ バルジュー55 VBR搭載か
画像:phillips.com

また画像に見られる通り、Ref.4113は2時、4時、そしてリューズ同軸と3つのプッシュボタンが配置されていますが、これがバルジュー55 VBR搭載機として恐らくは初の2プッシャークロノグラフ、すなわちリセットボタンがスタート、ストップボタンから独立したバリエーションではないかと言われています。

ユニバーサル・ジュネーブ他、他社が搭載するバルジュー55 VBRは、リューズと同軸配置のスタート、ストップ、リセットの為のボタンに加えて、2時位置のスプリットセコンド用のボタンのみという構成が全てであったといわれています。

変わり種として、古くからクロノグラフの誤作動防止の為のロックレバーを備えることを特徴としてきたエベラ―ル製のバルジュー55 VBR搭載機には、4時位置にそのロックレバーがクロノグラフ用のスクエアプッシャーかのように備わっているものが有りますが、エベラ―ルにもリセットボタンが独立したタイプは存在しないと言われています。

スプリットセコンド・クロノグラフはロレックスらしくない時計なのか

ロレックスが何故スプリットセコンドクロノグラフをこの12本しか作らなかったかについては定かではありませんが、ひたすらに腕時計の実用性を高めるべく邁進を続けたロレックスにとっては、やはりその複雑な構造故に発生する可能性のあるトラブルが許容出来るものではなかった、と考えるのが自然ではないでしょうか。

現代における機械式のクロノグラフの実用性については、機械式時計そのもの以上に懐疑的にならざるを得ず、さらに複雑な構造を持つスプリットセコンドクロノグラフについて、やはりロレックスはその守り通してきた姿勢を変えてしまう事でもない限り、再度スプリットセコンドクロノグラフを作ることはないように思えてなりません。

またそう考えれば尚、このRef,4113に全てのロレックスファンが熱狂する理由がよく理解出来るように思えますね。
  

ロレックス スプリットセコンド・クロノグラフ Ref.4113

ムーブメント: cal.55 VBR 17 2/3
製造時期:1942年
ケース番号:051’314
落札価格:2,405,000スイスフラン
開催日:2016年5月14日

 

情報元:phillips.com

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加藤

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