オンリーウォッチ2021
2005年、ディシュエンヌ型筋ジストロフィーの研究者たちを支援する目的で始まったこのONLY WATCHオークションは、毎回多数のウォッチメーカーによる渾身のオンリーピースが持ち寄られ、回を重ねるごとにその影響力を増して来ました。
2021年に第9回を迎えるに至り、このオークションは単なるオークションの枠を越え、2年に一度の時計業界上げての祭典として、すっかり定着したといえるでしょう。
これまで開催された8回のオークションを通じて、実に7,000万ユーロ(約9億円)以上もの収益が上がっており、その99%にあたる資金が研究者達に寄付され、2022年中の臨床実験開始が視野に入る所まで研究が進んでいる、と伝えられています。
ここでは第9回にエントリーした出品社、全53社の中でも、2011年の1/100秒まで測定を可能としたモナコ・マイクログラフや、2017年のラグジュアリーキット「オンリーウォッチ」スペシャルエディションなど、これまでにも魅力的なオンリーピースを提供し、その存在感を際立たせてきたタグ・ホイヤーのONLY WATCHについて取り上げてみましょう。
革新の象徴、モナコ
2021年のONLY WATCH の素材としてタグ・ホイヤーが選んだのはモナコでした。
モナコは1969年、「世界初」の自動巻クロノグラフとして、また世界初の角型防水クロノグラフとして鮮烈なデビューを果たして以来、タグ・ホイヤーの革新の象徴として常に特別な存在であり続けていますが、今回登場したモナコは、先進的な技術とハンドクラフトの融合により、これまでにない方向性を示すものであったのです。
モナコ Ref.74033N “ダーク・ロード” について
今回のモナコのデザインの下敷きとなっているのは、1975年に当時のカタログや広告に一度も登場することなく、僅か200本程度の生産に終わったといわれるオールブラック・モナコ Ref.74033Nでした。
PVDが特徴的なモナコ Ref.74033N 1970年代
Ref.74033Nはその当時、モナコの販売拡大を目指して考案されたバリエーションのひとつであったといわれており、先進的なブラックPVDケースに、当時のモナコとしては唯一であったブラックダイヤルからなるオールブラックの外装に、ホワイトフレームの夜光長短針、オレンジカラーのインダイヤル針とクロノグラフ秒積算針、そして文字盤に刻まれたベージュの夜光アワーマーカーが際立つ、精悍な外観を持っていました。
しかしスチールケースとブルー、またはメタリックグレーの文字盤の組み合わせで展開されていた当時のモナコのレギュラーモデルでさえ、奇抜が過ぎるとの意見が多勢を占めていた当時としては、その「行き過ぎた」先進性は決して広く認められるものではなく、少量で生産を終了してしまったということのようです。
そんなオールブラック・モナコは、アンティークウォッチブームや機械式時計復権の時代を経て、1990年代、初代モナコの伝説と共に、初めてスポットライトを浴びることになりました。
しかしケースを覆うブラックPVDの被膜や、インデックスの夜光塗料が剥がれ落ちることなく残るミントコンディションの個体はその時点で既に幻のような存在となっており、長年に渡って切望しながらも巡り合える事の無い、その余りにも希少なオールブラックモナコは、いつしかコレクター達の間で “ダーク・ロード(Dark Lord)” との不吉な愛称で呼ばれるようになったのです。
オンリーウォッチ カーボンモナコ CBL2191.FC6507
現代のダークロード、オンリーウォッチ・カーボン・モナコは、オリジナルと同じく、ブラックのケースと文字盤、オレンジの積算計とクロノグラフ秒積算針、そしてベージュの夜光バーインデックスという意匠を受け継いでいますが、その内容はまさに「スイス・アバンギャルド」を体現するものであったのです。
特別なカーボンケース
ブラックで全体を染め抜かれたケースは、オリジナルがスチールの表面にPVD加工を施したものであったのに対して、このオンリーピースでは極めて現代的なカーボン素材を用いたものでした。
裏蓋はこれを固定する4本のスクリューの為に残された四隅の僅かなスペース以外をサファイアクリスタルで埋め尽くしており、この特別な時計のエンジンルームを余すことなく鑑賞可能としています。
カーボンケースのモナコといえば、LVMH公認のカスタムウォッチメーカー、バンフォード・ウォッチ・ディビジョンによる2018年のリミテッドエディションがこれまでに唯一存在していますが、これは発売後即完売、現在セカンドマーケットにおいて大変な高評価を受けています。
モナコ バンフォードCAW2190.FC6437
その高い人気はタグ・ホイヤーによるインラインのモナコにはない、ブラックにバンフォード独自のアクアブルーが映える個性的なカラーリング以上に、先進性の象徴であるモナコにこそ相応しい、カーボン製のケースによるところが大きいといわれています。
オーダーメイドの特別な文字盤
その文字盤にもカーボン素材が投入されていますが、これはタグ・ホイヤーのパートナーであるダイヤルメーカー、アルテ・カドSAに特注したものといいます。
タグ・ホイヤーが長年に渡ってパートナーシップを育んできたモータースポーツの世界観を表現したという、この幾何学的なスケルトナイズが施された文字盤は、完全な手作業によって創られたと伝えられており、セコンドトラックやアワーマーカー、そして3つのインダイヤルなどが別部品として固定され、文字盤を通して見える特別なキャリバー・ホイヤー02の文字盤側の造形と共に、ダーク・ロードのメカニカルなイメージを形成しています。
ダイヤルの構成も基本的にはオリジナルのダーク・ロードに忠実ですが、長短針がクロームプレートとオレンジからなるフレームを持つ、ファーストモナコ Ref.1133に近いタイプが採用されている点、そして6時位置にスモールセコンドが存在する点に独自性が見られます。
特別なキャリバー ホイヤー02
80時間のパワーリザーブを誇るタグ・ホイヤーの自社製ムーブメント、キャリバーホイヤー02もまた、特別な仕様を与えられています。
その技術的な面で最も大きいのは、ホイヤー02として初めてカーボン製のヒゲゼンマイがインストールされていることでしょう。
非磁性物質で質量密度の低いカーボン製ヒゲゼンマイは、温度変化、衝撃など外乱の影響を受けにくく、安定した挙動により、精度に好影響を与えることでしょう。
また、ムーブメントの装飾技術を専門とするアートタイムSAとの提携により、チェッカーフラッグのような模様を刻むグラッテ装飾、面取り加工、ブラック・ポリッシュ、サーキュラー・グレインニング、ストレート・グレインニング、ペルラージュ装飾、スネイリング装飾、シェブロン・エングレイビング、サンバースト仕上げ等、10種類もの異なる技法によって、ムーブメントはもちろん、ムーブメントを固定するスペーサーに至るまで、その全てが念入りに仕上げられています。
更にローターを彩るオレンジからイエローへのグラデーションは、著名なマイクロペインターであるアンドレ・マルティネス氏による手作業で描かれたものです。
ストラップまで特製
一見、ビンテージのモナコに採用されたスチールブレスレットをブラックで再現したかのようにも見えるストラップは、レザーのストラップの芯部にシリコンを注入し、型に挟んでヒートスタンプを施すことで形成したといいます。
ディテールに至るまで手を抜くことなく、タグ・ホイヤーのスピリットを隅々まで行き渡らせ、構築された真に特別な時計、オンリーウォッチ・カーボン・モナコ。
この1本は、尖った先鋭技術とスイスの伝統的なウォッチメイキングを、タグ・ホイヤーならではのレシピで融合した個性の塊であり、この1本に注ぎ込まれた数々の特別なエッセンスが、今後の同社のプロダクトにどう反映されていくのかも気になるところです。
オークションはスイスのジュネーブにて2021年11月9日、クリスティーズによって開催されます。
オンリーウォッチカーボンモナコ CBL2191.FC6507
ストラップ:レザー
ムーブメント:Heuer Calibre 02
製造数:世界限定1本
情報元:www.onlywatch.com
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