現在IWCが展開するコレクションの中で、最も古い歴史を持もつのがパイロットウォッチ・コレクションです。
ここではIWCのパイロットウォッチの起源にはじまり、そのコレクションの基幹モデルとして常に安定した人気を獲得し続けるマーク11の子孫たちの歩みについて、ブラックダイヤルのベーシックモデルを中心として、変遷を追ってみたいと思います。
IWCにおけるパイロットウォッチの起源
1904年にルイ・カルティエが製作したサントスウォッチに始まったといわれるパイロットウォッチの歴史。
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21世紀の現在となっては、もはや想像すら困難に思えますが、航空の黎明期、燃料の消費予測のみならず、自機の位置確認の為に使用可能であった計器は時計のみであり、特に地形等のランドマークが目視出来ない夜間飛行や長距離の飛行において、航空時計は航海におけるマリンクロノメーターと同様の役割を果たす必要が有ったのです。
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1920~1930年代にロンジンが製作したいくつかの有名なパイロットウォッチは、当時まだ存在しなかった秒針停止装置の代わりとして、文字盤中央に手動で回転可能なセコンドトラックが刻まれたインダイヤルを搭載することで、秒単位での経過時間の測定を可能にしていました。
1930年代、精度や信頼性において当時から高い評価を集めていたIWCもパイロットウォッチの開発に着手、1936年にスペシャル・パイロットウォッチ Ref.IW436をリリースしました。
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IWCのスペシャル・パイロットウォッチは、グローブをはめたままでも、より素早くゼロポイントの設定が可能な矢尻型ゼロマーカー付きの回転ベゼル、視認性を重視したブラックダイヤル、飛散防止ガラスの風防、そして耐磁性を持つ脱進機を備え、-40℃~+40℃の温度変化に対する調整を施した特別なCal.83を搭載、現代にまで続くIWCのパイロットウォッチ・コレクションの原点として、その名をIWCの歴史に刻みました。
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軍需によって促されてきたパイロットウォッチの進化
1940年にはドイツ軍からの要請により、後にビッグ・パイロットウォッチ Cal.T.S.C Ref.IW431を製作。
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そして1945年には英国陸軍からの要請により、WWW(ウォータープルーフ・リスト・ウォッチの意)を製作。
WWWは英国軍が1944~1945年頃にオメガやジャガールクルトなど全12社に対して大量に発注した軍用時計であり、その機能性や外観のディテールはミルスペックによって規定されていましたが、ムーブメントについては発注先各社に任せられていたようであり、オメガのCal.30T2 やロンジンのCal.12.68など、歴史に名を遺す高精度機揃いであったことから、時計コレクター達は、これら全12社によるWWWをまとめて”DIRTY DOZEN”と呼び、熱心なコレクターを生み続ける存在となっています。
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そんな12社の中でも名機中の名機と呼ばれるキャリバー83の魅力は傑出しており、一際の存在感を示していることはここに繰り返すまでもないでしょう。
このIWCによるWWWのみがマークX(X=ten)と広く呼ばれるようになったのは、次世代に控える英国軍用時計がマーク11であったからなのでしょうか?
歴史的名品、マーク11誕生
第二次世界大戦中、まだGPSの技術が存在せず、経過時間の計測が重要であった航空機のコクピット内には、レーダーをはじめとする様々な電子機器が置かれるようになり、これらが発生させる磁気が腕時計の精度に与える影響が深刻な問題として取り上げられるようになりました。
そこで戦後間もなく、英国空軍はミルスペック”NAVIGATOR’S WRIST WACH MARK 11, Ref.No.6B/346″を発行し、IWCとジャガー・ルクルトに耐磁腕時計の製作を依頼、これに応えて1948年にIWCが製作したのがマーク11でした。
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IWCの伝説的な技術者、アルバート・ぺラトンが1946年に製作した新設計のセンターセコンドの手巻きムーブメント、Cal.89を、高導電性の合金で作られたインナーケースとムーブメントフォルダ、そして厚い文字盤で包み込み、頑丈な36ミリ径のスクリューバックケースに封入したマーク11は、当時英国空軍が使用していた天測航法において高い信頼性を示し、数多い軍用時計の中でも最高傑作のひとつとして、時計史にその名を刻んでいます。
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このマーク11の持つ耐磁構造は、1955年に発売された民間用の耐磁時計、インヂュニア Ref.666に受け継がれています。
またこのマーク11に搭載されるCal.89は、民間用に生産されたCal.89と異なる仕様を持っている点も強調しておきましょう。
すなわち、ムーブメントの裏蓋側のブリッジ上、二番車受け付近に国有の備品であることを示すブロードアローが刻まれており、また航空時計として重要な機能である、秒針停止機能を備えていたのです。
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また登場当初は耐震装置を備えていませんでしたが、1950年代にはインカブロックを備えるようになりました。
またマーク11の文字盤には、最外周にセコンドトラック、12、3、6、9時位置にバーの夜光インデックス、その内周には1~11のアラビア数字のアワーマーカーが配され、12時位置には”INTERNATIONAL WATCH Co.”のロゴと共にブロードアローが描かれていました。
その簡潔で機能的なブラックの文字盤は、ホワイトフレームの夜光長短針と共に、最高の視認性を約束しました。
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夜光塗料には当初ラジウムが使用されていましたが、英国空軍は1963年までにはトリチウムに切り替えており、これに伴って文字盤の6時位置にTの表示を義務付けるようになりました。
厳格な精度管理
またミルスペックによって、英国軍への納品の前に、44日間に渡る厳格な検査がメーカーに義務付けられていたといいます。
すなわち、5姿勢での精度検査、-5度~+46度までの異なる気温における精度検査を経て規定範囲内の精度を持つ時計だけが納品を許されました。
市販品のクロノメーターの検査期間は16日間といわれていますが、その3倍近い時間をかけて検査しなければならなかったのです。
更には英国空軍はマーク11の管理を、海軍がマリンクロノメーターの管理を依頼していた王立グリニッジ天文台に行わせていたことからも、マーク11に求められた精度がいかに厳しかったかをうかがい知ることが出来るでしょう。
ちなみに第二次世界大戦中から、英国軍ではイタリアに関連するローマ数字の使用を中止しており、マーク11はマークXIとは表示しなかった、といわれています。
マーク11は1948年から1981年まで(一説には1983年、または1984年までの説もあり)生産されましたが、その後IWCのパイロットウォッチは、はしばらくの休眠状態に入りました。
1994年、マークXII登場
1988年、IWCはジャガー・ルクルト製の機械式のクロノグラフ機構を持つクオーツムーブメント、いわゆるメカ・クオーツ・クロノグラフを使用して、マーク11のデザインを復活させました。
これが商業的な成功を呼び、1994年、マーク11をアップデートしたマークXII(12) Ref.IW3241に繋がったといわれています。
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36ミリ径の頑丈なケースとインナーケースによる耐磁性能や視認性に優れるブラックダイヤルなど、あくまでクラシックなパイロットウォッチのデザインを受け継ぎながら、文字盤上のアワーマーカーのフォントを僅かにモダンなものに変更、3時位置にデイト表示を備え、サファイアクリスタルの風防を備えることで60m防水を確保していました。
最大の変更点は自社製のCal.89からジャガー・ルクルト製の薄型自動巻ムーブメントCal.889をベースとするIWCのCal.884にムーブメントを積み替えたことでしょう。
その恩恵としてインナーケースを持ちながらケース厚が10.4ミリにまで抑え込まれており、すっきりとした印象になっていますが、ルクルトの薄型ムーブメントだけにメインスプリングのトルクが弱く調整がシビアという、質実剛健なIWCのイメージとはまた異なるムーブメントであった、ともいわれています。
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マークXIIはレザーストラップ付きのモデルのほか、11連のリンクを持つジュビリーブレスレット付き、またイエローゴールドモデルや500本限定でブルーダイヤルのプラチナ製モデルRef.IW3241.07、また500本限定で夜光アラビアインデックスとレイルウエイトラックがレイアウトされ、デイト表示の無いブラックダイヤルにコブラ針の組合せの顔を持つプラチナモデル、Ref.IW3241.09等も制作されました。
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更にはチタン製モデル、Ref.IW3242も1997年頃に様々な限定モデルとして製作されましたが、これはETAのCal.2892A2をベースとするCal.37522を搭載していました。
1999年、マークXV登場
1999年、それまでのマークXIIと入れ替わるかたちで、マークXV(15) Ref.IW3253が登場しました。
マーク13と14が存在しないのは、13や14を不吉な数字とみなす文化が存在していることがその理由とされています。
マークXVでは、ケース径が2ミリアップの38ミリ径になったと共に、ムーブメントがETAのCal.2892A2をベースとするCal.37524に変更になりました。
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一部の時計ファンの間では、ヴァシュロン・コンスタンタンやオーデマ・ピゲなどの名門メゾンに古くから供給されてきた、高級なイメージが強いジャガー・ルクルトのムーブメントが、数多くの、広い価格帯の時計に多数搭載されてきたETAのムーブメントに切り替わることを良しとしない風潮が有り、一時はマークXIIは生産終了後、極端なプレミアがつくに違いない、との噂が流れる程でした。
しかし実際は、数十年の歳月に渡る熟成を経たETAのエボーシュ(半完成品)にIWCが手を尽くして作り上げたCal.37524が悪かろうはずがなく、その優れた安定性と耐衝撃性によって、マークXVは時計ファンの信頼を掴んでいったのです。
マークXVもマークXII同様にマーク11のデザインをの受け継いでいますが、ケース径の拡大に伴って文字盤外周に生まれたスペースに、より明瞭なセコンドトラックを刻んでおり、マーク11のデザインをベースとしながら、オリジナ ル以上に均整の取れたツールウォッチらしい表情を実現しています。
このマークXVのオリジナルデザインを最後に、IWCはマーク11のデザインから離れ、他のパイロットウォッチの意匠をミックスするなどして新たなオリジナリティの追求を始めたように見えますが、もしかするとマーク11をベースとしている限り、これ以上のものが作れないとの判断が有ったのでは、とすら個人的には思えます。
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その後2000年にはマークXVのオリジナルデザインを白文字盤にアレンジしたモデルをリリース、
そして2001年には1996年に日本限定でリリースされたプラチナモデルのダイヤルデザインを蘇らせた、デイト表示の無いスチール製のスピットファイア・ブラックダイヤルの1000本限定モデルを発売。
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更に2003年にはスピットファイアのブラックダイヤルとシルバーダイヤルが新しいデザインで登場し、スピットファイア・コレクションが誕生するなど、多くのバリエーションと共にマークシリーズの人気を絶対的なものとしました。
IWCとETAについて
機械式時計の冬の時代にジャガー・ルクルトやIWCを立て直し、A.ランゲ&ゾーネ復興の立役者の一人としても大活躍し、時計史に偉大なる足跡を残したギュンター・ブリュームライン。
そんなブリュームラインがIWCの運営を担当していた1980年代当時、開発部門の責任者を務めていたクルト・クラウスに、「他社と同じ機能を持つなら価格は半分に、同じ価格を付けるなら機能を倍に」との指示を出したといわれています。
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そこでクルト・クラウスが選択したのがETAムーブメントであり、ETAのCal.7750というムーブメントが有ったからこそ、クラウスはダ・ヴィンチ永久カレンダークロノグラフ Ref.3750等の傑作を生み出すことが出来たのです。
またCal.2824やCal.7750と並ぶETAの名機、Cal.2892がCal.2892A2に進化した陰には、クルト・クラウス氏の貢献が有った、とも言われています。
2006年、マークXVI
2006年、SIHHにおいてIWCはパイロットウォッチの刷新を宣言、マークシリーズはマークXVI(16) Ref.3255に進化します。
マークXVのケース径が38ミリ径であったのに対して、マークXVでは更に1mm拡大されて39ミリ径となりました。
もちろんスチール製のクローズド・バックや、軟鉄製のインナーケースによる耐磁性能の確保などは、マーク11から現行モデルであるマークXX(20)まで一貫してきた、マークシリーズの伝統です。
ムーブメントは引き続きETAのCal.2892A2をベースとしていますが、キャリバー番号が30110に変更されました。
しかし最も大きいのは、マーク11から受け継いできたダイヤルや針の意匠が、その面影をどことなく残しながらも、1940年にドイツ軍の為に製作した、ビッグ・パイロットウォッチ Cal.T.S.C Ref.IW431の縮小版のようにも見える、IWCならではのオリジナリティを前面に出したものに変化したことでしょう。
特に夜光のアルファ型長短針や12時のインデックスの意匠には、Ref.IW431からの影響がはっきり出ていますが、デイト表示がある3時に加えて、マークXVIからは外周のセコンドトラックのインデックスを大きくとった6時と9時のアラビア数字が省略されるようになりました。
このマークXVIの機能性や意匠は、パイロットウォッチ・コレクションのベースであるこのマークシリーズの伝統を守りながらも、より本質的な進化を目指すようになったIWCなりの姿勢の変化を示しているように思えます。
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またマークXVIにおいては、シルバーダイヤルのスピットファイアも当初からラインナップされたほか、2010年にはマークXVIの日本限定モデルが登場。
この日本限定モデルは、マークXVの日本限定モデルに引き続き、プリントのアラビア数字のアワーマーカーとレイルウェイトラック、そしてコブラ針の組合せを採用していますが、マークXVIのバージョンでは、レギュラーモデルと同様のデイト表示付きで、レイルウエイトラックの外周に5秒刻みのアラビア数字インデックスが配されています。
この今となっては大変珍しい限定モデルは、アリゲーターストラップ付きのRef.IW3255-16が200本、スチールブレスレット付きのRef.IW3255-17が150本の合計で350本が販売されました。
2012年、マークXVII
2012年、IWCはトップガン・コレクションの誕生と共にパイロットウォッチ・コレクションの大幅なリニューアルを発表、マークシリーズもマークXVII(17)として全面刷新されました。
2008年のリーマンショックによる落ち込み以降、時計業界は信頼性を重んじたベーシックでクラシックなモデルを中心とした展開によって新たな活路を見出しており、多くのメーカーがケース径を縮小する傾向にあった中、IWCはこれに反してマークXVIIのケース径を前作よりも2ミリ拡大した41ミリ径としました。
これは今から思えば元々コンパクトに収めることよりもより頑丈に作ることに興味を示してきた、IWCらしい選択であったのかも知れません。
実際にマークXVIIでは、より厳密な加工によってしなやかさを増したブレスレットと共に、外装の仕上げが向上したことで無骨さの中にもより上質感のある仕上がりになりました。
またクラスプにあるIWCのロゴの部分を押すことで、簡単にブレスレットの長さの微調整が可能になり、いつでも快適な装着感を得られるようになったことも大きいでしょう。
搭載されたムーブメントは引き続きCal.30110であり、軟鉄製インナーケースの存在も変わりありません。
文字盤の基本的なデザインはマークXVIをそのまま拡大したようなものでしたが、デイト表示窓を弧状に拡大することで当日の前後1日ずつ、合計3日分のデイト表示を見せながら、デイト窓に添えられた赤い三角によって当日の日付を指すという、IWCが航空機の高度計に着想を得たと説明するデザインに変更されました。
急激な加速度によって視力の異常が発生するといわれる航空機のコクピット内では、配置される計器のモニター類には誤読防止の為の様々な工夫が張り巡らされているといいますが、マークXVIIがそんな誤読の危険性を高めるデイト表示を備えたことに対して、批判的な声もありました。
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またIWCはフランスの伝説的な作家であり、航空機のパイロットでもあった、アントワーヌ・ド・サンテグジュペリの名を冠したパイロットウォッチのコレクションを2006年から展開していますが、2014年には彼の代表作の一つである「星の王子様」の発刊70周年を記念して、マークシリーズとして初のサンテグジュペリのコレクション、ブルーダイヤルのマークXVII プティ・プランス Ref.IW3265-06をリリースしました。
2016年、マークXVIII
IWCは2012年に続いて2016年にもパイロットウォッチの大幅なリニューアルに踏み切り、マークシリーズもマークXVIII(18) Ref.3270へと、更なる進化を遂げました。
ケース径が前作より1ミリ縮小された40ミリとなり、賛否両論あったデイト表示が一般的なスタイルに戻りました。
またマークXVの顔に一際の精悍さを与えていた、文字盤外周に途切れることなく刻まれたセコンドトラックが復活、前作では他より長く取られていた15秒、30秒、45秒の3つのインデックスの長さが揃えられて、省略されていた6と9のアラビア数字のアワーマーカーが復活しました。
また12時位置のトライアングルインデックスもセコンドトラックと被らない位置まで下げられたことで、全体の意匠がクラシックな落ち着きを感じさせるものになりました。
ムーブメントは引き続きCal.30110、軟鉄製インナーケースはマークXVIIIにも受け継がれました。
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このマークXVIIIはベースとなるブラックダイヤルのモデルに加えてシルバーダイヤルが追加されたほか、ブルーダイヤルのプティ・プランス、ブラックセラミックケースとグレーダイヤルを採用したトップガン・ミラマーなどが2016年からラインナップされたほか、2017年にはブラウンダイヤルのマークXVIII アントワーヌ・ド・サンテグジュペリ、Ref.IW3270-04、チタン製のマークXVIII ヘリテージ Ref.IW3270-06等をはじめ、多数のバリエーションを生みました。
中でも2017年に1948本の限定で登場したマークXVIII トリビュート・トゥ・マーク11 Ref.IW3270-07は、マーク11に忠実であろうとした文字盤や針のデザインと軍用時計らしいテキスタイルストラップを備え、大いに話題をまきました。
またマークXVIIIは2018年頃から、ETA製のムーブメント、Cal.2892A2をベースとした従来のCal.30110から、その代替機として開発されたセリタのSW300をベースとするCal.35111に切り替えており、例えばIW3270-01がIW3270-09といったかたちでリファレンス番号の変更を受けています。
2022年、マークXX
2022年、マークシリーズはマークXX(20) Ref.IW3282に引き継がれ、更なる進化を見せます。
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マークXIX(19)が存在しないのは、恐らくは13や14が存在しないのと同じ理由と思われます。
ケース径は前作と同じ40ミリ、軟鉄製インナーケースも受け継がれていますが、まず触れなくてはならないのは、マークシリーズとして実にマーク11のCal.89以来となる自社製ムーブメント、Cal.32111を搭載したことでしょう。
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もっとも、伝説の設計士、アルバート・ぺラトンが残した名機、Cal.89は設計から組み立てまでを内製していたのに対して、新しいCal.32111はムーブメント専業メーカーであるヴァル・フルリエとの共同開発であり、IWCのチームによる継続的な研究によって、独自の特性を与えられたムーブメントであるといいます。
このムーブメントは、2019年に登場したスピットファイアにCal.32110として搭載されたムーブメントをベースとしており、脱進機をシリコン製に置き換えて動力の伝達効率を向上させたと共に、主ゼンマイや潤滑剤にも改善を加えることによって、従来の72時間のパワーリザーブをCal.32111では120時間にまで延長しています。
また日付表示が前作まではブラックの盤にホワイトで日付がプリントされていたのに対して、マークXXではホワイトの盤にブラックで日付がプリントされるようになり、判読性が向上しました。
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更にはこれまで60m防水としていた防水性能が、マークXXをもって100m防水にまで引き上げられました。
ダイヤルデザインはマークXVIIIを引き継ぐものですが、セコンドトラックの0、15、30、45の4本のインデックスのみが長くなり、その分アワーマーカーが若干中心寄りに寄りました。
これによって少々マーク11の雰囲気に近づいているようにも見えます。
自社製ムーブメントの多様化によるロングパワーリザーブとクロノメーター級の高精度、練りつくされたデザインと高度な仕上げが冴え渡る外装。
マークシリーズはマークXXをもって、現代の機械式腕時計として、外観も性能も申し分のないスペックを備えることが出来た、ということができるでしょう。
IWCの「質実剛健」の象徴として
重要な作戦の成功を左右し、大切な兵士の生命を守る軍用時計として厳しい要求の下に生まれ、機械式時計の復権と共に蘇り、進化を続けてきたIWCのパイロットウォッチ。
ツールウォッチとして磨き抜かれたその信頼性は、IWC伝統の誠実なものづくりの精神を最もダイレクトに反映したもののように思えてなりません。
表現を変えれば、IWCが考える機械式腕時計の本質をもっとも端的に表現しているプロダクト、それがマークシリーズなのではないでしょうか。
今後のIWCの更なる進化に期待せずにはいられません。
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